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双葉のしおり

読んだ本の感想と紹介をするブログです

三浦しをん『舟を編む』

小説

本屋大賞に選ばれた作品だけあって、読み応えのある非常に面白い作品だった。

不器用な男と美しい女のラブストーリーは王道ではあるけれど、それに辞書作りに人生を捧げた男たちというマイナー要素が加わって丁度いい感じに仕上がっている。

2016年の夏にノイタミナでアニメ化予定とのことでそちらも楽しみ。
実写映画もあったようだが、そちらの評判はどうだったのだろう。
そう大幅に改変しようのない作品だとは思うが……

数藤ゆきえ『昔話の食卓』

文学 民俗学

グリム童話に登場する貧相なお弁当といえば、すっぱいビールと硬いパン、というイメージを漠然と持っていた。

貧しいのだからパンが硬いのは納得できる。
だがビールはどうだろう。
現代の感覚からすると、ビールはどちらかと言うと贅沢品であるし、昼食時の飲み物にアルコールの含まれたものはふさわしくないように思う。

だとすれば変わりの飲み物としてふさわしいのはなんだろうか。
水? いや、水道のない時代の生水は飲めたものじゃないはずだ。
ならばお茶だろうか? それも考えられない。紅茶はまだ存在していないし、ハーブティー的な物があったにしろ常飲するものというよりも、まだ薬として飲まれることの方が多かっただろう。
水を煮沸すれば安全に飲めただろうか? それも難しいだろう。お湯をわかすのには燃料がいるし、沸かしたお湯を清潔なまま保存する技術もない。


消去法になるが安全に水分を補給するには、ビールぐらいしか選択肢がない。


幼いことから親しんでいた童話の世界だが、考えて見るとなんとなくのまま読み進めていたことに気がつく。


著者がフランス語に詳しいだけあって、扱われている「昔話」はペローのものが中心ではあるが、そのころ農民の暮しが地続きのドイツとフランスで大きく違うとは考えにくいし、だいたい同じようなものだろう。
。沿岸と内陸では違うかも知れないが、国によって大きな差が出るようには思えない。

今回読んでいて一番の驚きだったのは「パンの時代」の存在だ。
ヨーロッパは肉が主食のイメージがあったのだが、パンからの摂取カロリーが大半を占めていた時代があったというのだ。
言われてみれば、昔話においてパンの登場する頻度はかなり高い。
肉は専らごちそうとして扱われ、庶民の日常食ではない。



昔話の中の「贅沢」「幸福」といえばまず豊かな食である。
今以上に天候や経済状況に食卓が大きく左右された時代だったのだから。
それは頭ではわかっていたつもりだったが、普段食事がどういうものだったかを知らなかったがために、その重大さに気がついていなかった。


食事にかぎらず、昔話への理解を深めるには、当時の時代背景を知ることが必要だと改めて感じた。

宮下啓三『メルヘンの履歴書 ―時を超える物語の系譜』

文学

ドイツにおけるメルヘンの成り立ちと現代までの変遷を追った一冊。

ドイツ文学においてメルヘンが重要な位置を占めているということはなんとなく知っていたが、文学としての始まりがフランスの妖精物語の翻訳だったのは意外だった。
しかも、フランスでは妖精物語が貴族のものとされたがために、フランス革命によって失われてしまったというのは非常に興味深い。


日本におけるメルヘンがファンシーで柔らかな雰囲気なものになってしまったことについて、子ども向けにするためであるとか、美しいものにするためであるとか述べられていたが、それだけではないように思う。

物語を絵本や子ども向けにしようとすると「尺」の問題で余分な部分は削るしかない。
長い物語は飽きてしまうし、絵本は絵の文だけページもスペースも必要になる。

小人の表現についても同じではないだろうか。
最近の絵本では、「白雪姫」の小人が老人ではなく若者にひげをつけただけの美しい生き物として描かれていると捉えているようだが、単にシワがデフォルメされているだけのようにも思う。

文章でも絵でも、無駄をそぎ落としてシンプルになればなるほど抽象的になる。
反対に、複雑な表現はリアリティを生む。

とすれば、絵本の中の白雪姫は物語が洗練されていった結果とも言えるのではないだろうか。

川村元気『世界から猫が消えたなら』

小説

家猫は古代より鼠から穀物を守るという役割を果たしてきた。
そんな家猫が世界にいなかったとしたら、私達の社会はどうなっていたのだろうか――



――という本ではない。

表紙も題も猫なものだから、てっきり猫が重要なのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
確かに猫の存在は物語上重要ではあるが、別に猫である必要はない。
たぶん犬でもロボットでもやろうと思えば問題ない、と思う。
猫は家族の一員であり、主人公の過去に触れるための鍵として登場する。

だから猫好きの人が猫の話だと思って読むと、期待はずれとなるかもしれない。


本屋大賞にノミネートされた本だけあって、読みやすく共感できる良い作品だった。
会話も多く、軽い読書には向いていると思う。

個人的にはもっとボリュームのある本の方が好み。

東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

小説

読み終わってまず、「良く書けている本だなぁ」と思った。

大人気作家の作品に対して「良く書けている」なんて偉そうかもしれないが、そう感じたのだから仕方ない。

 

悪人だった者がある出来事によって改心する、という題材そのものに目新しさはない。

しかし一見短編集とも読める話にしっかりとした伏線が無駄なく貼られ、結末に向かってまとまっていく様は見事だと感心してしまう。

馴染みやすい題材のおかげで読みやすく、感情移入も行いやすい。

小説家を目指す人はこれを手本にしても良いのではないかと思うぐらいだ。

 

一つ気になる所を上げるとすれば、この本のタイトルだろうか。

確かに「奇跡」の起こる話には違いないが、それをそのまま題にするのは些か安っぽすぎやしないだろうか。

それも含めて、この本のわかりやすさと言えるのかもしれないが。